親を困らせない子どもは、心も穏やかなのでしょうか?
ある家に子どもが二人いるとしましょう。親は、一人の子どもの嘘や盗みのことで学校から連絡を受けます。もう一人の子どもは部屋から出てこないまま、何を聞いても大丈夫だと答えます。親が相談室に連れてくるのは、たいてい問題を起こした子どものほうです。目の前の被害やもめごとが大きいからです。
けれども、静かな子どもだからといって、心に何の問題もないと決めつけることはできません。気分の落ち込みや不安、自分を傷つけたいという考え、友だちや家族から離れていくことは、外に向かって大きな音を立てないことがあります。子どもの状態がどれほど深刻かは、その子がどれだけ親を困らせるかで判断するものではありません。子どもが安全かどうか、眠りや食事、友だち関係といった日常がどれだけ崩れているかで判断する必要があります。
嘘や盗みのような行動は、止めさえすればよいのでしょうか?
嘘や盗み、暴力ははっきりと止めなければならず、自分が与えた被害を償う責任も子どもに教えなければなりません。同時に、その行動の下にどんな痛みがあるのかにも目を向ける必要があります。誰にでも、子どものころに経験した挫折や剥奪、失望といった痛みがあります。剥奪とは、受けるはずのものを受けられなかったことです。こうした痛みは思春期になるとわき上がり、わき上がりながら、人にもともとある破壊的な力に触れはじめます。その力が外に出てきたものが、嘘や盗みのような行動なのかもしれません。
ここでいう破壊的な力は、悪いだけのものではありません。動く人形の背中に入っている電池のように、人を動かすエネルギーのことです。精神分析家のウィニコットは、嘘や盗みのように社会の常識や秩序に反する行動を「反社会的傾向」と呼び、こうした行動をする若者たちにこそ希望があると言いました。そうした行動は社会的には迷惑で誰かに害を与えますが、行動そのものは、子どもの中のエネルギーが生きて動いているということだからです。
ウィニコットが希望があると言ったのは、問題行動がかまわないという意味ではありません。子どものころの痛みに目を向けるようにという言葉も、すべての非行の原因が家庭にあるという意味ではありません。非行の原因はさまざまなので、専門家の評価が必要です。ただ、罰を与えるだけでその行動の下にある痛みを見なければ、行動を止める機会を逃してしまうことがあります。
静かな子どもには、助けを求める力が残っているのでしょうか?
大人の機嫌を先にうかがいながら育った子どもは、怒ったり助けを求めたりするかわりに、自分を隠します。言われたことをこなし、成績を保って親を安心させますが、ひとりになると何も感じられなかったり、消えてしまいたいと考えたりすることがあります。
ウィニコットはむしろ、このように言うことをよく聞いて問題を起こさない子どもたちのほうが、問題は深刻だと考えました。社会的には面倒を起こさなくても、その子の心の状態は崩れているというのです。面倒を起こす子どもは、人を動かすエネルギーが外に出てきているのに、静かな子どもはそのエネルギーを殺してしまったと考えたのです。生命力が隠れてしまったのです。そのため、この子は怒る力も、助けを求める力もたたんでしまっているかもしれません。ただし、ウィニコットは、面倒を起こす子どもたちもほとんどがある程度は病んでいる状態だと言いました。
大人の機嫌をうかがって自分を隠している子どもに「問題がなくてよかった」と言うと、沈黙はさらに固まります。静かさをほめる前に、子どもがよく眠りよく食べているか、友だちと付き合っているか、楽しんでいることがあるか、体に傷はないか、死にたいと考えていないかを、負担にならないように確かめる必要があります。
二人の子どもには、それぞれ何が必要なのでしょうか?
問題を起こした子どもには、してよいことといけないことをはっきり分ける線と、カウンセリングや治療のような助けが必要です。静かな子どもには、眠りや食事、友だち関係のようなことに絶えず目を配る関心と、子どもが自分から気持ちを話すまで待ってくれる関係が必要です。
急に孤立する、成績が落ちる、眠りが変わる、自傷の跡が見える、あるいは死について口にするといったことがあれば、すぐに精神科や相談センターで専門的な評価を受ける必要があります。親を楽にしてくれる子どもが、そのまま健康な子どもだというわけではありません。もしかすると子どもが、家の中を騒がせないために自分の気持ちを隠しているのではないか、目を向けてみてください。
執筆:金亨根(キム・ヒョングン)——ソウル依存症心理研究所 所長、現代精神分析教育院 院長。対象関係論にもとづく心理療法家、そしてスーパーバイザーとして、臨床と教育に携わって26年になります。ご相談は相談掲示板へ。
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